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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)407号 決定

抗告人 大丸建設工業株式会社

右代表者代表取締役 小林義昭

相手方 大雅ビルディング株式会社

右代表者代表取締役 西孝雄

右代理人弁護士 高橋信

主文

原決定を取り消す。

本件売却を許さない。

理由

一  抗告人は、「原決定を取り消す。抗告費用は債権者・国民金融公庫の負担とする。」との決定を求め、相手方は、「本件抗告を棄却する。抗告費用は抗告人の負担とする。」との決定を求めた。

抗告人の抗告の理由の要旨、これに対する相手方の認否及び主張の要旨は左に記載するとおりである。

(抗告の理由の要旨)

1  抗告人は、昭和四六年八月末日、別紙物件目録記載(三)及び(七)の建物(以下「本件(三)及び(七)の建物」という。)を合棟する工事を完了したので、本件(三)及び(七)の建物を右合棟によりいずれも滅失し、異別な一棟の建物となったのであるから、原審裁判所は、本件(三)及び(七)の建物について民事執行法(以下単に「法」という。)五三条の類推適用により本件競売の手続を取り消すべきであった。

2(一)  別紙物件目録記載(四)及び(五)の土地(以下「本件(四)及び(五)の土地」という。)は、登記簿上の面積がそれぞれ一六・〇六平方メートル及び二四・三六平方メートルで合計四〇・四二平方メートルであるところ、本件(四)及び(五)の土地にまたがって本件(七)の建物が存在し(本件(七)の建物の敷地は本件(四)及び(五)の土地のみであり、それ以外の土地は含まれていない。)、本件(七)の建物の一階床面積は登記簿上七〇・五一平方メートルである。

(二)  そして、本件(四)及び(五)の土地の地積を測量したところ、その実測面積はそれぞれ二六・〇四平方メートル及び六九・八九平方メートルで合計九五・九三平方メートルであることが判明したから、本件(四)及び(五)の土地の実測面積の合計は登記簿上の面積の合計よりも五五・五一平方メートル多いのが実情である。

3  しかるに、原審裁判所の命を受けた評価人及び執行官のずさんな調査により、原審裁判所は、右実情を顧慮しないまま最低売却価額及び一括売却の決定をし、物件明細書を作成したのであるから、原審裁判所の最低売却価額及び一括売却の決定、物件明細書の作成には法七一条六号所定の重大な誤りがある。

(抗告の理由に対する認否)

抗告の理由1記載の合棟工事の事実は知らない。本件(三)及び(七)の建物が合棟により滅失した旨の主張は争う。同2(一)記載の事実は認める。同2(二)記載の事実中、本件(四)及び(五)の土地の実測面積の合計が登記簿上の面積の合計よりも多いことは認めるが、その具体的数量は知らない。

(相手方の主張の要旨)

1  抗告人あるいは抗告人の代表者は、本件(三)及び(七)の建物につき合棟などの不動産登記法上の手続をとることは十分可能であったのであり、また、本件(四)及び(五)の土地につき地積更正手続をとることも同じく十分可能であったものである。しかるに、これを放置し、現段階で前記のごとき主張をするのは信義則に反し、許されない。

2  相手方は、本件(四)及び(五)の土地の地積を目測し、それが登記簿上の面積よりも広いことを前提として買受価格を申し出たものであり、右買受価格は、抗告人の主張する本件(四)及び(五)の土地の実測面積に評価額を換算して算出した価格とその余の本件不動産の評価額との合算額よりも多額であるから、本件最低売却価額の決定等に誤りがあったとしても、本件売却許可決定の全体の公正さを害するものでない。

二  当裁判所の判断

1  そこで、まず抗告理由1について検討するに、一件記録によれば、本件(三)及び(七)の建物は、その一部が接合され、隔壁の一部が除去されており、かつ、外階段を共用にしていることが認められるけれども、他方、両建物はその外観、構造、接合態様等に照らし、依然としてそれぞれ別個独立の建物であり、両建物が合棟により滅失し、別異の一棟の建物となったと認めることはできないから、抗告人の抗告理由1は、立論の前提を欠き、理由がない。

2  次に、抗告理由2について判断する。

(一)  一件記録によれば、本件(四)及び(五)の土地の登記簿上の面積はそれぞれ一六・〇六平方メートル及び二四・三六平方メートルで合計四〇・四二平方メートルであること、本件(四)及び(五)の土地にまたがって本件(七)の建物が存在する(本件(七)の建物の敷地は本件(四)及び(五)の土地のみであり、その敷地には本件(四)及び(五)の土地以外の土地は含まれていない)こと、本件(七)の建物の一階床面積は登記簿上七〇・五一平方メートルであること、本件(七)の建物の実際の一階床面積は登記簿上の床面積である七〇・五一平方メートルとほぼ同一であり、本件(四)及び(五)の土地には本件(七)の建物の立地部分のほかに余地があるから、本件(四)及び(五)の土地の実際の面積は、右七〇・五一平方メートルを上回りこそすれ、下回ることはないこと、したがって、本件(四)及び(五)の土地は、前記各公簿面積の合計より少なくとも三〇・〇九平方メートル広いことが認められる(抗告人は、本件(四)及び(五)の土地の実測面積はそれぞれ二六・〇四平方メートル及び六九・八九平方メートルである旨主張し、その提出にかかる藤井信義作製名義の地積測量図二通((以下「藤井測量図」という。))、吉田恒久作製名義の「敷地面積、建築面積計算表」と題する書面((以下「吉田計算表」という。))中には、それぞれ抗告人の前記主張に符合照応する記載部分が存するが、一件記録によれば、藤井測量図は、隣接地所有者の立会の下に本件(四)及び(五)の土地の範囲を確認・測量して作成されたものではなく、いまだ調査段階としての測量図の域を出ないものであり、また、吉田計算表は現地を実測して作成されたものではないことが認められるので、これらはいずれも本件(四)及び(五)の土地の実際の面積の的確な認定資料とはしえないものであり、他に抗告人の前記主張事実を認めるに足りる確たる資料はない。)。

(二)  しかるに、一件記録によれば、原審裁判所から別紙物件目録記載(一)ないし(七)の土地建物(以下これらを一括して表示する場合には「本件不動産」という。)の評価を命ぜられた評価人は、その評価に際し、本件(四)及び(五)の土地の面積について概測の結果公簿数量にほぼ同じと認められるとして、これを前提に、本件(四)及び(五)の土地につき、一平方メートル当たりの標準化価格三一万八〇〇〇円に建付減価をし、敷地利用価値の割合(〇・三)を乗じ、さらに各公簿面積に等しい一六・〇六平方メートル及び二四・三六平方メートルを乗じて得た一三八万円及び二〇九万円(一万円未満四捨五入。以下同じ)をもって各評価額としたこと、また、本件(七)の建物については、建物自体の価格につき、一平方メートル当たりの再調達原価一二万一〇〇〇円に定額減価及び観察減価をし、延床面積(公簿上の床面積に同じ)を乗じて八七八万円と算定し、敷地利用価値(法定地上権の価格)につき、前記土地評価と同様の方法(ただし、敷地利用価値の割合は〇・七)によって八一〇万円と算定したうえ、これらの合算額に占有者の存在する負担割合を乗じ、一階及び三階の賃貸借契約の敷金を控除して得た一三〇九万円をもって、本件(七)の建物の評価額としたこと、そこで、原審裁判所は、右評価人による本件不動産の評価額(その中には、本件(四)及び(五)の土地、本件(七)の建物の前記各評価額が含まれる。)の合計四六九六万円をもって、一括された本件不動産の最低売却価額(以下「本件最低売却価額」という。)と定め、本件不動産の一括売却を実施し、六三〇〇万円で最高価買受けの申出をした相手方に対し、本件不動産の売却を許可する旨の決定(以下「本件売却許可決定」という。)をしたことが認められる。

(三)  してみれば、前記評価人は、本件(四)及び(五)の土地の面積を実際より少なくとも三〇・〇九平方メートル過少に誤認した(以下右面積を「誤差面積」という。)結果、本件(四)及び(五)の土地並びに本件(七)の建物の評価を誤り、原審裁判所は右のような誤りを含む評価に基づいて本件最低売却価額を決定したものである。そして、前記評価人の算定方法を用いて、誤差面積分に相当する本件(四)及び(五)の土地並びに本件(七)の建物(ただし、法定地上権のみ)の各価格を算出すると、後記計算式(以下「式」という。)(1)、(2)のとおりそれぞれ二五八万円並びに五一二万円となり、その合計は七七〇万円となる(以下右金額を「誤差価格」という。)から、これらの事実と誤差面積が、本件(四)及び(五)の土地の実際の面積(少なくとも七〇・五一平方メートル)に占める割合並びに本件(一)、(二)、(四)ないし(六)の土地面積に占める割合(式(3)、(4)のとおり前者は約四三パーセント、後者は約一六パーセント)、誤差価格の本件最低売却価額に占める割合(式(5)のとおり約一六パーセント)等を考慮すれば、本件最低売却価額の決定には、法一八八条の準用する法七一条六号所定の重大な誤りがあるといわざるをえない。

(1) 31万8000円×建付減価(1-0.1)×敷地利用価値(1-0.7)×30.09≒258万円

(2) 31万8000円×同上(1-0.1)×同上(1-0.3)×30.09×占有者の存在する負担(1-0.15)≒512万円

(3) 30.09÷70.51×100≒43%

(4) 30.09÷(79.96+22.14+70.51+16.85)×100≒16%

(5) 770万円÷4696万円×100≒16%

なお、一件記録中の評価人作成の昭和五九年一二月一〇日付け報告書中には、「本件(一)、(四)及び(五)の土地の全体の地積は、土地地籍図その他の資料によれば公簿数量と概ね合致すると認められる。」旨の記載部分が存するが、土地地籍図なるものの存在、内容如何が不明であるのみならず、一件記録中のその他の関係資料、ことに小山清作製名義の地積測量図写その他に比照して、にわかに措信することができない。

(四)  ところで、相手方は、抗告人が本件(四)及び(五)の土地につき地積更正手続をとることが可能であったのにこれを放置し、現段階で右土地の公簿面積と実測面積との相違を主張するのは信義則に反し、許されない旨主張するが、前叙の本件最低売却価額決定の誤りの程度・態様にかんがみると、その誤りは売却の効果に影響を及ぼすものといわざるをえない(右の誤りがなく、適正な評価及びそれに基づく最低売却価額の決定がされていたとすれば、相手方の申し出た前記六三〇〇万円を超える金額で最高価買受申出がされた可能性を否定することはできない。)から、抗告人が右のような本件最低売却価額の決定の誤りを主張することが信義則に反し、許されないものということはできない。

また、相手方は、相手方の前記買受申出価格は、被告人の主張する本件(四)及び(五)の土地の実測面積に評価額を換算して算出した価格とその余の本件不動産の評価額との合算額よりも多額であるから、本件最低売却価額の決定に誤りがあったとしても、本件売却許可決定の全体の公正さを害するものではない旨主張するけれども、本件最低売却価額の決定につき、叙上の程度・態様の誤りの存する本件事実関係の下においては、所論は理由がないものというべきである。

よって、相手方の前記主張はいずれも採用するに由ないものである。

3  以上によれば、本件不動産の売却に関しては、法一八八条の準用する法七一条六号所定の売却不許可事由があるのであるから、原審裁判所は本件売却を不許可とする旨の決定をしなければならなかったところ、本件売却許可決定をしたものであり、原決定は不当であるからこれを取り消し、本件売却を許さないこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奥平守男 裁判官 尾方滋 橋本和夫)

〈以下省略〉

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